こんにちは、New Commerce Ventures松山です。
今回は今年2月に発売されたApple Vision Proのコマース系アプリを実際に使ってみた感想とともに紹介します。
Apple Vision Proは、従来のVRゴーグルと異なり、カメラを通じて目の前の状況を投影、視線と指の動きでコントロールできる次世代デバイスです。マウスのカーソルを動かすという作業が不要、且つ音声入力を利用するとPC以上のスピードで作業ができ、スマホの次のデバイスとしてのポテンシャルを感じています。
2月の販売開始のタイミングで小売・EC大手が専用アプリを準備しており、今回は14個のアプリを紹介します。
家具マーケットプレイス最大手Wayfairは、バーチャル空間上で家具・インテリアを検索できるアプリ「Wayfair Decorify」を提供しています。
このアプリでは、自分の部屋の写真をアップロードもしくは自分好みの部屋の画像を選び、好きなテイスト(ミッドセンチュリーやインダストリアル、ボヘミアン等)を選択すると、部屋のレイアウトはそのままに内装や家具を自分好みのテイストに変換してくれます。
変換された画像内のアイテムを選択すると、類似の商品が表示され、そのままWebサイトで購入できる仕様となっています。
ただ3Dではなく、2D画像のため、生成AIの活用としては面白いですが、敢えてApple Vision Proで利用する必要はないかなと感じました。(Spatialモードもあるが、2D画像が大きくなっているだけ)
ホームセンター大手のLAWE’Sは、キッチンを自由にデザインできるアプリ「Lowe’s Style Studio」を提供しています。
自分好みのキッチンを選択して、テイストを変更したり、配置されている設備やインテリアを変更し、お気に入りのキッチンをデザインすることができます。iOSアプリとの連携により、デザインに使用した商品購入やサンプルの送付依頼ができる仕組みとなっているようです。
家電大手のBest Buyは、ショッピングアプリ「Best Buy Envision」を提供しています。
家電、家具等のカテゴリから商品を選択すると、実際の空間に実物サイズの商品を配置することができ、気に入った商品はそのままWebサイト上で購入することができます。
商品は360°様々な角度から見ることができますが、配置位置や角度等の微調整は難しく、実際にレイアウトして確かめると言うよりもサイズや全体のバランスの確認という用途になると考えられます。
住宅情報プラットフォームのZillowは、物件検索アプリ「Zillow Immerse」を提供しています。
物件一覧から気になる物件を選ぶと画像と詳細情報を閲覧することができます。画像は2D画像となっており、既存Webサイトと異なる点はなく、特にApple Vision Proで利用する必要性はないと感じました。
アパレル小売のJ.Crewはショッピングアプリ「J.Crew Virtual Closet」を提供しています。
ブランドの世界観を表現する空間に商品ギャラリーが表示され、商品の検索や閲覧ができます。商品ギャラリーから商品を選択すると商品画像や詳細情報を見ることができ、そのまま購入できます。
これらの仕様は既存ECサイトと変わりませんが、大きな特徴は画面右手のマネキンに服を試着させることができる点です。
ただし、マネキンはデフォルトのサイズから変更できないため、試着・サイズ確認のためには使えません。また、マネキンを裏側から見たり、マネキン自体を回転することもできないため、あくまでアイテムのコーディネートの参考という用途に限られるのではという印象でした。
アウトドアウェア・ギアを販売するDECATHLONは、ショッピングアプリ「Decathlon USA」を提供しています。
既存ECサイトと変わらない機能ですが、一部商品は商品の3Dモデルを表示でき、サイズの縮小や360°での閲覧が可能となっています。
360°の閲覧は商品を360°回転させるだけでなく、商品の周りを歩きながらそれぞれの角度から商品を閲覧することができます。
ヨガ向けのウェアを販売するAlo Yogaは、ウェアの販売とヨガの体験コンテンツを提供する「alo Sanctuary」をリリースしています。
ブランドの世界観を表現する空間で商品を閲覧できますが、機能としては既存ECサイトと変わらず、2Dの画像や商品紹介文を見ながら商品を検索、閲覧する形式となっています。
ショッピング以外では、動画とナレーションにより瞑想やヨガを体験できるコンテンツを提供しています。
化粧品ブランドe.l.f. Cosmeticsは、ブランドの世界観を提供する体験コンテンツとオンラインショッピングができる「your best e.l.f.」をリリースしています。
販売は既存ECサイトと変わりませんが、e.l.f. を体現する瞑想コンテンツやストレッチ、簡単なゲームの3つのコンテンツが提供されています。
イマーシブコマースプラットフォームを提供するObsessによって制作されており、Apple Vision Proだけでなく様々なデバイスからアクセスすることができます。「your best e.l.f.」は以下からもアクセスできますので、ご覧ください。
https://www.elfcosmetics.com/your-best-elf
高級アパレルECのMytheresaは、ショッピングアプリ「Mytheresa: Luxury Experience 」を提供しています。
ブランドの世界観を表現する2つの空間で買い物を楽しむことができます。ただ上記各社のアプリ同様に既存ECサイトと変わらない機能となっており、Apple Vision Proである必要性は感じませんでした。
スニーカーC2CプラットフォームのStockXは、Apple Vision Pro版「Stock X」をリリースしています。
一般的な商品の検索や商品詳細・売買情報に加え、スニーカーを360°回転させながら閲覧することができます。
また、リビングにスニーカーの棚を再現、棚から選んで商品を見るという体験を提供しています。将来的に自分の保有するスニーカーもバーチャル棚に表示できるようになるようで、他アパレルサイトとは異なる価値として利用されるかもしれません。
高級ブランドGUCCIは、Apple Vision Pro用のオリジナルコンテンツ「WHO IS SABATO DE SARNO?」を配信しています。
このアプリでは、グッチの新クリエイティブディレクターのファッションショーまでのストーリーが描かれたドキュメンタリー映像を配信していますが、動画と3D空間を融合させた表現で非常に魅力的なコンテンツとなっています。(ちょっとキャプチャだとわかりづらい・・)
たとえば、電車のシーンで動画の横から電車が走ってきたり、ファッションショーのシーンでは周囲の空間がファッションショーの会場になったり、動画自体は2Dですが、ブランドの世界に飲み込まれていくようなまさにイマーシブなコンテンツでした。
GUCCIは、Roblox上での「GUCCI TOWN」をはじめ最新技術を組み合わせたキャンペーンを多く展開しており、この取り組みもキャンペーンの一つという位置付けですが、バーチャル空間でのCMやエンタメコンテンツの一つの可能性を感じさせられました。
アーティストによるアートのマーケットプレイスKaleidoは、ショッピングアプリ「Art Universe」を提供しています。
ジャンルを選択すると、アーティストが表示され、アーティストを選ぶとアーティストの作品がアニメーションで紹介されます。KaleidoのWebサイトと比べてもアーティストの世界観が一目でわかり、優れた顧客体験を提供していると感じました。
中国EC最大手アリババの「淘宝」アプリもリリースされています。今回利用したアプリの中でも最も秀逸なのがこの淘宝アプリでした。
アプリを起動すると、商品一覧が表示され、商品を選択すると商品紹介動画と説明文、3Dモデルによって構成される商品ページが表示されます。
3Dモデルは、実物サイズでの表示や寸法表示、360°の回転やドローンや自転車のような動く製品であれば動いている映像までチェックすることができます。また、360°どの角度からも見ることができ、たとえば靴のような奥行きがある製品の場合、その内側まで見ることができます。
3Dモデルの表示と同時に映像で商品が紹介されるため、ブランドの世界観も合わせて訴求される仕様となっています。
特に驚きだったのは、このクオリティーの3Dモデルを有する商品の量が膨大にあることです。かなりの金額を投資して3Dモデルを生成していると考えられます。
将来的にARゴーグルやメタバースが普及した世界において、商品の3Dモデルデータベースは競争力の源泉になると考えられ、既にこの規模で取り組んでいることに驚きを感じました。
最後は企業ではなく個人開発のアプリです。日本のコンビニをバーチャル空間に構築しており、コンビニ内を歩き回り、商品を選び、購入すると自宅まで配送されるというサービスを提供しています。
今後複数人での同時参加も予定しているようで、いわゆるメタバースショップ(イマーシブコマース)のコンビニ版ですが、個人的にはわざわざバーチャル空間を移動しながら購入する動機がわかりませんでした。
以上、14個のApple Vision Proアプリを紹介しましたが、淘宝のように動画とクオリティの高い3D情報による買い物体験は、楽しみながら買い物ができ、ウィンドウショッピングに近い感覚を感じました。また、GUCCIやArt Universeは、既存の映像やWebサイトではできない表現により、ブランドやアーティストの世界観を表現しており、表現方法の発展はまだまだ大きなポテンシャルを秘めていると感じました。
一方で、ほとんどのアプリがApple Vision Proで提供する必要性は少なく、あくまでキャンペーンや実証実験段階のものが多い印象でした。(2000年代後半の自社サイトのプロモーションコンテンツ、2010年代前半のプロモーション用の自社アプリが流行した状況に近いと感じています。)
Apple Vision Proが今後普及するのかどうかはわかりませんが、余程の軽量化、装着時の違和感がなくなるまでは、業務用もしくはエンタメ用となると思います。(特に個人利用においてはエンタメ用途と想定しています。)
そのため、コマースでの利用においても、Webサイトやスマホアプリと異なり、利便性よりもエンタメ性ある買い物体験をどう作るかが重要になると感じます。
今回紹介した各アプリの機能をまとめると、大きく以下の3つの価値を提供していると思います。
①3Dモデルを見ながら買い物できる
②実空間に配置しながら買い物できる
③ブランドの世界観を体験しながら買い物できる
①②は利便性の追求ですが、これはゴーグルである必要性はほぼなく、③の手段として3DモデルやARを活用しつつ、たとえば、3D空間でアニメキャラと会話しながらそのアニメのグッズを購入できるとか趣味のレッスンコンテンツを視聴・体験しながらそのまま購入できるなどエンタメ性を取り入れたサービスが成長するのではないかと思いました。
今回はコマース領域のApple Vision Proアプリを紹介しましたが、コマース×XR領域で挑戦する起業家の方、この領域のスタートアップに興味ある事業会社の方がいらっしゃれば、ぜひディスカッションさせてください!以下Xへご連絡いただければと思います!
▼DMはこちらまで
今回はIPOが発表されたIbottaを紹介!
レシート撮影によるキャッシュバックアプリからリテールメディアネットワークへ進化したIbottaの事業状況や競合ユニコーンのFetchとの比較をまとめてみました!
この領域に挑戦している方・興味ある方いれば是非お話しさせてください!https://t.co/DmTDhvsvfv
— 松山馨太@New Commerce Ventures (@KTMY0507) April 16, 2024