こんにちは、New Commerce Ventures松山です。
今回は先日上場予定が報道されたリワードアプリのユニコーンIbottaを紹介します。
Ibottaは、アプリ上で商品を選択、購入後のレシートを撮影することでキャッシュバックが得られるリワードアプリです。売上高は2022年2.1億ドル、2023年3.2億ドルと約1.5倍の成長を遂げ、2022年純損失5,490万ドルから2023年純利益3810万ドルへと黒字化を実現しています。
2011年設立のIbottaは、リワード・キャッシュバック系アプリとしては老舗で、従来消費者は新聞やクーポンサイトに掲載されたクーポンを印刷・持参する必要がありましたが、Ibottaはそれらの手間をなくし、商品選択〜レシート撮影のみの利便性の高い節約手段として誕生しました。
Ibottaの登場以降、同じくレシート撮影でリワードを得られるFetchやオンラインでのクーポン・キャッシュバックを自動検索〜適用できるHoney(2019年にPayPalが40億ドルで買収)等の節約系アプリが誕生してきました。
今回のS-1(日本の目論見書に相当する米国上場時の提出書類)を踏まえ、急成長の背景とFetchとの違いをまとめてみました。
前述のとおりIbottaは、アプリ上で商品を選択、購入後のレシートを撮影することでキャッシュバックが得られるサービスを提供しています。
消費者は買い物のたびに購入金額の一部がキャッシュバックされ、現金やギフトカードに転換できます。
このキャッシュバックの原資は、消費財ブランドの広告費で賄われており、成果報酬型で支払われる仕組みです。Ibottaは、ブランドに対して、購買情報や位置情報等を用いてターゲティングや広告管理ができる広告配信システムを提供、顧客の購入に応じてアフィリエイト手数料を徴収するモデルとなっています。
2020年にIbottaの調査をしたことがありましたが、現在はこの広告配信システムに2つのアップデートがなされていました。
1つ目は、POSデータ×機械学習による購入率の向上です。85社の小売事業者と提携、POSデータを蓄積、機械学習することで、過去の購入履歴やプロモーションに対する反応等に基づく顧客プロファイルを作成し、購入率を高めているようです。
2つ目は、リテールメディアネットワークの構築です。Ibottaは、Rewards as a Serviceとして、広告配信とキャッシュバックの仕組みを小売企業のロイヤリティプログラムのバックエンドへ提供しています。これによりIbottaは、自社アプリと小売企業のアプリの広告枠を束ねたリテールメディアネットワーク「Ibotta Performance Network (IPN) 」を構築、2億人以上へ広告リーチが可能となっています。
このRewards as a Serviceは、WalmartやKroger、Dollar General 、Exxon Mobil、Shell等の大手の自社アプリに導入されて、小売企業は自社の顧客に対して、キャッシュバックを活用したプロモーションが可能となっています。
たとえば、Walmartの顧客は、Walmartのウェブサイトもしくはアプリからブランドからのオファーを選択、店舗もしくはオンラインで購入すると、Walmartで利用できるキャッシュバックを得ることができます。さらにWalmartのリテールメディアネットワークWalmart Connectと連携しており、ブランドはキャッシュバックオファーをWalmartの保有する様々な広告媒体に配信することができます。
これにより、顧客に対するリピート購入促進と自社リテールメディアの収入増加を実現しています。
2023年のIbottaの急成長は、この「Ibotta Performance Network (IPN) 」によってもたらされています。
Ibottaの売上3.20億ドルのうちアフィリエイト収入が2.43億ドルと全体の76%を占めています。アフィリエイト収入の内訳では、Ibotta単体のアフィリエイト収入が1.63億ドル、パブリッシャー(提携先/Rewardsas a Serviceを導入している小売企業)経由のアフィリエイト収入が0.80億ドルとなっています。
Ibotta・提携先のキャッシュバック利用者数・キャッシュバック回数・1回あたりのキャッシュバック金額を時系列で見ると、サードパーティの利用者数が急増していることがわかります。
Ibotta単体のキャッシュバック利用者数は頭打ちとなっているようですが、キャッシュバック件数は増加しており、出稿ブランドの増加と機械学習による購入率向上により成長を持続させていると考えられます。
一方で、2023年に提携先のキャッシュバック利用者数・キャッシュバック回数共に急増しています。これは、Walmartがこれまで一部導入していたプログラムを2023年にリニューアル、Walmart Cashとして全面導入したことが大きな要因となっています。
このようにIPNの提携先を増加させることにより、提携先の自社アプリやロイヤリティプログラムを利用する顧客が一挙にIbottaの顧客となるため、急成長を遂げています。
さらに提携先の増加は、広告主の増加にもつながります。広告主はより多くの消費者に対してリーチができる媒体を求めています。Ibotta単体では5000万人程度(DL数)ですが、ネットワーク化により2 億人以上へリーチ可能な媒体となっており、さらなる広告主の出稿が期待されます。さらに、広告主が増えれば消費者の利用も増加し、提携先も増加するという好循環が生まれ始めています。
上記のようなIPNによる好循環に対して、驚きだったのは、Ibotta単体のキャッシュバック利用率の低さです。Ibottaのダウンロード数が5000万強に対して、キャッシュバック利用者が200万人、DL数は累計のため、ざっくり計算ではありますが、アクティブなキャッシュバック利用率は全体の4%です。
これに対して、類似サービスを提供するFetchのキャッシュバック利用率(こちらもApple to Appleではないため、あくまで参考値)は、公表数字によればダウンロード数が2200万強に対して、キャッシュバック利用者が1100万人と50%以上のキャッシュバック利用率となっているようです。
これは、Ibottaがアプリ上で掲載されている商品(広告主ブランドからのオファー)を選択、購入後にレシートを撮影するというプロセスに対して、Fetchは不特定多数の商品のレシート撮影のみでキャッシュバックを得られるサービスのため、利用ハードルが低いことが大きな要因と考えられます。
さらにFetchは、アプリ上で友人と繋がり、報酬額を競争するソーシャル機能を導入しており、こちらもアクティブ率を高めている要因と考えられます。
IbottaとFetchの特徴をまとめると以下のような違いがあります。
Fetchに比べアクティブ率の低いIbottaですが、海外の口コミを見ると多くのユーザーがIbottaとFetchの両方を利用しており、勝敗関係ではなく共存関係にあるようです。また、Ibottaには、レシート撮影により得られる対価の大きさや現金に転換できる等のメリットもあります。これはアフィリエイト契約先となる広告主が多くなければ、実現できず、時間をかけて多くのブランド・小売企業と提携関係を築いてきたIbottaの強みであると感じます。
特にRewards as a Serviceとしてブランド・小売企業と共存共栄を図る戦略はIbottaのこれまでの強みを活用することができ、さらにクッキーレス対策の追い風を受け、リワードアプリではなくリテールメディアネットワーク企業として成長していくのではないでしょうか。
今回はリワードアプリのユニコーンIbottaを紹介しましたが、このような買い物体験の発明やリテールメディアの領域に挑戦する起業家の方、この領域のスタートアップに興味ある事業会社の方がいらっしゃれば、ぜひディスカッションさせてください!以下Xへご連絡いただければと思います!
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