本コラムでは2024年1月9日よりラスベガスで開催されていた技術の祭典「CES 2024」で話題を集めたウォルマートの基調講演の内容を紹介します。また、文末ではWalmartが導入している注目スタートアップについてご紹介します。
ウォルマートCEOであるダグ・マクミロン氏が登壇した基調講演は下記7つのテーマについて語られました。
①店舗チェックアウトの自動化(AI-powered Exit Experience)
②AR試着及びソーシャルコマース(Shop with Friends)
③冷蔵庫への食品補充サービス(InHome Replenishment)
④GenAI活用の検索(GenAI Search)
⑤ドローン配送の拡大(Drone Delivery)
⑥再エネ本格化の加速(Regeneration Acceleration)
⑦従業員体験の向上(My Assistant Expansion)
です。①~⑤については対消費者、⑥は対社会、⑦は対従業員といった各ステークホルダーに対する取り組みの講演内容でした。ここからは、各テーマを簡単に振り返ります。また基調講演はyoutubeで公開されているので内容が気になる方は各テーマごとにおおよその開始時間を記載したので御覧ください。
コストコのような会員制倉庫型スーパーであるサムズクラブの取り組みの紹介でした。サムズクラブは従来から会員向けプログラム、DXに注力しており、モバイルアプリでは買い忘れの防止やお気に入り商品登録のほか、リワードプログラム等に注力してきました。今回の発表はチェックアウトに関するものでした。従来でも商品ごとにバーコードスキャンをし、アプリに登録されている決済手段でお会計といったプロダクトを提供していたものの、店舗を出る際にはレシートを提示し不正がないかチェックを受けるために列をなす必要がありました。今回の“AI-powered Exit Experience”では、画像認識を用いることにより列に並ばずそのまま店舗をでることができるようにするという発表でした。顧客の時間の節約、利便性の向上を重視しているサムズクラブならではの取り組みです。
アパレル用品のAR試着、及び、友人に自分のコーディネイトを相談できるソーシャル要素を盛り込んだプロダクトの発表でした。体験としては、ますユーザーは自分の身長・体重等から自身に似たバーチャルモデルを選択します。そのモデルに気になった洋服(ジャケットとパンツのセットなど)のコーディネートを着せていき複数のコーディネートを作成します。そして、そのコーディネート集をURLリンクとして友人に共有、友人は気に入ったコーディネートに「いいね」を押すことによってフィードバックをすることができる、といった機能となります。オフラインでやっている購買体験をオンラインでも実現しようとする取り組みと言えそうです。
元々、スマートキーなどを用いて自宅内の冷蔵庫まで配送するInHomeのサービスは行っていましたが、今回は、データ×AI分析により在庫が切れそうなタイミングで食材を自動で届けてくれるサービスの提供を発表しました。もちろん出張等で必要ない場合は一時停止もできるそうです。欲しい物(what)が欲しい時(when)に欲しいところ(where)で手に入るという利便性が実現する未来も近そうです。
こちらのセッションではマイクロソフトCEOサティア・ナデラ氏が登場するなどGenAIを活用した検索体験が紹介されました。消費者の心理を先読みした検索/レコメンド体験を実現していくという趣旨でした。具体例で挙げられていたのは、スポーツ観戦パーティを企画する際のお買い物についてでした。大型テレビ、スナック、飲み物など複数のものを個別に検索して購入することが一般的ですが、新しい検索体験では、一見関連していない上記商品群が「スポーツ観戦パーティを企画している」等を投げると一発で表示されるというデモが紹介されました。こういった、消費者の意図を先読みしてAIがアシストしていく購買体験は普及していきそうです。
配送手段の進化としてドローン配送の拡大方針が発表されました。ドローンメーカーであるWing、Ziplineと連携しDallas-Fort Worthの住民の75%がドローン配送の対象になるという全米でも最大規模のドローン配送網実装計画が発表されました。品数もウォルマートの12万商品のうち75%が配送対象であり、かつ、注文から30分での配送という充実したサービスです。アメリカは国土の広さも相まってラストワンマイル配送の進展が目覚ましいです。日本でも過疎地や買い物難民支援への導入拡大に期待したいです。
サステイナビリティーへの強化を表明する内容で、現在で電力使用量の47%を再生エネルギーを活用しているところを2035年では100%にするために、取り組みを強化していくことが発表されました。太陽光発電、蓄電池の設置を加速させることで、店舗での電気自動車の充電設備ネットワーク、自家配送トラックのEV化推進、さらには電力の外部への販売等クリーンエネルギーエコシステムの構築を目指します。
ウォルマートには210万人に及ぶ従業員が存在しています。元々従業員満足度向上のために従業員用アプリ「Me@Walmart」を提供、業務系アプリ(シフト管理やトランシーバー機能、商品陳列補助機能など)や教育コンテンツや株式投資などの福利厚生など幅広いラインナップを提供してきました。今回の発表では生成AIを用いて世界中のウォルマートの従業員が母国語でドキュメンテーションの効率化等を支援する機能リリースが発表されました。
以上が講演会で語られた7つのテーマの概要となります。個人的に印象的だったのは上記テーマを通じて用いられていた「Adaptive Retail」という概念です。HPには「Adaptive Retail is the Future」といった記事もありました。ウォルマートCTOであるスレシュ・クマール氏の投稿によると「Adaptive Retail」について以下のように語っています。
“At Walmart, our purpose is to help people save money and live better, and Adaptive Retail is the future for how we deliver.”
“ウォルマートのパーパスは人々がお金を節約しより良く生活することを支援することであり、Adaptive Retailは新たな実現方法です”
“it’s about creating personalized, seamless and flexible shopping experiences from start to finish.”
“それは、最初から最後までパーソナライズされた、シームレスで柔軟なショッピング体験を創造することです。”
“With Adaptive Retail, Walmart is bringing the best aspects of any one channel to the other. Everything great about eCommerce – no lines, easy search and find, personalized recommendations – must be available in the store. And everything great about the store – try on, customer service, instant purchase – needs to be available from home.”
“Adaptive Retailによって、あらゆるチャネルの最良の側面が他のチャネルにもたらされます。eコマースの素晴らしい点――列に並ばないこと、簡単な検索と発見、パーソナライズされたレコメンド――はオフラインでも享受されるべきです。そして、店舗の素晴らしい点――試着、接客サービス、その場で購入可能――はEコマースでも享受できるべきです。”
オムニチャネルやユニファイドコマースといった概念を発展させたようなイメージのようですね。今回の7つのテーマのうち、対消費者の①~⑤はまさにAdaptive Retailを推進する取組となっておりました。本公演では取り上げられていなかったものの彼らの取り組むメタバースやライブコマースもAdaptive Retail推進の打ち手と言えるでしょう。今後も「Adaptive Retail」という概念を念頭に様々な取り組みに注目していきたいと思います。
さて、ここからは2社、ウォルマートが導入している注目スタートアップについてご紹介します。1社目はライブコマース支援のbuywithです。ウォルマートのyoutubeを見るとbuywithを通じたライブコマース体験が想像しやすいかと思います。概要は以下となります。
設立年:2018年
国:米国
直近調達:8Mドル/22年5月/Seed/2024年
累計調達金額:10Mドル
主要投資家:True., Fab Co-Creation Studio Ventures, igniteXL Ventures, Regah Ventures, Sarona Ventures
会社HP:https://www.buywith.com/
事業概要:
・自社ECサイトに組み込めるライブコマース機能を提供
・ECサイトの画面共有をしながらインフルエンサーが配信するのが特徴
・閲覧者は視聴中”want”ボタンを押すと自分のカートに商品が追加されるなどスムーズな購買導線(アプリダウンロードは不要)
・EC企業は撮影スタジオも不要で、タグ1行で実装可能と導入も容易(インフルエンサー探しにはマケプレを利用可能)
・注文単価70%向上、CVR10倍といった成果がありWalmart等の大手も導入
調達ニュース(2022年5月 調達時点)
https://www.builtinnyc.com/2022/05/25/buywith-raises-9m-seed-round-hiring
2社目はサプライヤーとの取引条件の交渉自動化を支援をしているPactumです。10万超のサプライヤーを抱えるウォルマートでは全てのサプライヤーと最適な交渉ができておらず、Pactumを活用し手が回っていない交渉の自動化することで3%もの仕入れコスト削減に繋がっているとのことです。そしてサプライヤー側についても4分の3の会社が人間との交渉よりAIとの交渉を好むと行った結果も出ているそうです。概要は以下となります。
設立年:2019年
国:米国
直近調達:20Mドル/22年12月/Series A/
累計調達金額:36Mドル
主要投資家:DocuSign, Atomico, Metaplanet, Maersk Growth, NordicNinja VC
会社HP:https://www.pactum.com/
事業概要:
・サプライヤーとの条件交渉の最適化を支援するSaaS
・交渉はゼロサムゲームと考えがちだが、企業毎に意思決定の判断軸、優先順位、制約事項が違うことを活用しwin-winの関係になるパレート最適解をAIにより目指すのが特徴
・例えば価格、契約期間、支払いサイト、割引率、解約条項などの項目の調整を自動化
・主に手の回らない中小規模の交渉案件を対象
・導入企業はダッシュボードで節約した金額、交渉の成功件数等が確認可能
・交渉を受うけるサプライヤー側の90%はpactumに満足
・$1Mの支出あたり$42kの節約に繋がり、71%の交渉は完全自動化
・WalmartやMaerskなど大手企業で導入
調達ニュース(2022年12月 調達時点)
https://www.businesswire.com/news/home/20221208005188/en/Pactum-Raises-20M-to-Strengthen-How-Enterprises-Negotiate-Deals-and-Counter-Recession-Impacts
以上、ウォルマートの基調講演の振り返り、及び、注目スタートアップのご紹介でした!
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