メタバースやNFTに関するニュースを見ない日はないというくらいブームとなっていますが、小売・流通業界では、メタバースやNFTはどのように活用できるのか?今回は『メタバース・NFTが創るコマースの未来』をテーマに小売・流通領域におけるメタバースやNFTのトレンドをまとめてみます。
大きなトレンドとして3つのテーマがあると感じています。
イマーシブコマースは、メタバース内での新たな買い物体験を提供するサービスです。海外ではアパレルやインテリア領域での導入事例が多く、CVRの向上やアクセス数の増加が見られているという声も多く聞こえます。
この領域では、自由にアクセスしてウィンドウショッピングを楽しめる仮想空間=バーチャルストアの制作を支援するスタートアップが続々と生まれています。
obsessは実店舗を仮想空間上に再現、バーチャルストアで商品を見ながら、そのままECで購入できる空間の制作支援を行なっています。累計13.5MUSDを調達、Ralph LaurenやFENDI、COACH、CRISTIAN DIOR、TOMMY HILFIGERなど人気ブランドが多く利用しています。
▼実際のRalph Laurenのバーチャルストアはこちら
https://ralphlaurenvirtualstores.com/beverly-hills/
BeyondXRは、仮想空間ならではのバーチャルストアを制作、アパレル以外にもインテリアや化粧品等多様な商材のバーチャルストアを制作しています。こちらもP&GやLOREAL、三菱電機など大手が導入しており、累計7.5MUSDを調達しています。
インドでは自動車業化に特化してバーチャルストアを開設できるMetadome.aiが4.1MUSDを調達、LEXUSやMGが導入するなど多くのスタートアップが登場しています。
バーチャルストアとは別のアプローチでARで現実空間の買い物をアップデートするスタートアップも生まれています。
シンガポールのBuzz ARは、ARグラスを通じて仮想看板を設置したり、店頭に設置されたディスプレイで買い物客をアバターに転換する等実店舗向けのイマーシブコマースを提供しています。
さらに商品の3D画像を簡易に生成することでイマーシブコマースを推進するスタートアップも多く登場しています。これらのスタートアップは仮想空間だけでなく、通常のECサイトでリッチな商品画像を提供する手段としても活用されています。
フランスのNfiniteは、ECサイト向けに既存の写真や動画から3D画像を生成できるSaaSです。多くの小売企業に導入され、累計122MUSDを調達しています。
累計52MUSDを調達するインドのAvataarは3D画像の生成だけでなく、ARで実際の空間に配置できる機能を提供、Tiger GlobalやSequoia Capital Indiaが投資家として参加しています。
これらの3D画像生成をより簡単に提供しているスタートアップがLuma AIです。カメラをかざすだけで3D画像を生成してくれるサービスとなっています。
このような3D画像の生成は商品だけでなく、人間も対象となります。ZMO.AIはGAN技術によりファッションモデル自体を自動生成、アパレルアイテムのコーディネート写真を簡単に生成することができます。
この技術はEC業界にもプラスの影響を与える可能性があります。先日大手シューズメーカーのEC事業を管轄する友人と話していたところ、このような都度の商品撮影やモデルによる着用シーンを撮影する業務が重い負荷となり、悩んでいるとのことでした。
これらのサービスは従来のEC販売における課題を解決するとともに、イマーシブコマースの世界でも必要不可欠な技術となっていくと考えられます。
バーチャルストアに話を戻すと、国内でも70億円の大型調達を行なったHIKKYがBEAMSのバーチャルストアやトヨタ自動車のバーチャルボートショーを開催、凸版印刷がポップアップストアのb8taと連携してバーチャルショッピングモールアプリ「メタパ™」を提供するなどスタートアップから大企業まで多くの企業が参入しています。
一方で、これらのサービスはブランド独自のバーチャルストアとなるため、独自に集客する必要があり、話題性はあるものの買い物のしやすさという点では、通常のECサイトの方が利便性が高く、普及にはまだまだ時間を要すると感じています。
既に人々が集まっているRobloxやFortniteなどの仮想空間では、その空間自体が集客力を持っており、参加者同士のネットワークやコミュニケーション習慣も既に存在しています。
商品を見る「場」の提供だけでなく、友達や店員と交流しながら買い物するという体験自体が仮想空間に設計されて、初めてイマーシブコマースが成立するのではないかと考えています。
まずは既存のメタバースでのバーチャルストアから始まり、FacebookログインやTwitterログインのように「参加者数・参加者同士のネットワーク・コミュニケーション手段」がセットになり、ブランド独自のバーチャルストアへと広がっていくのではないでしょうか。
このような背景からRobloxやSandobox等のメタバース上でバーチャルストアを開設、デジタルファッションを提供するブランドも増加しています。
デジタルファッションは、アバター・スキンのようにこれまでも多くのゲームで存在していましたが、Web3やメタバースの流行に伴い、大手ブランドが物凄い勢いで参入しています。
Roblox上ではNikeの「NIKELAND」、FOREVER 21の「Forever 21 Shop City」、GUCCHIの「GUCCI TOWN」をはじめ、多くの企業がバーチャルストアを開店、デジタルファッションの販売やミニゲームを提供しています。
メタバース上での販売だけでなく、アイテムをNFT化して販売するブランドも多く登場しています。
Nikeは、NFT制作スタジオのRTFKTを買収、バーチャルスニーカー「Rtfkt x Nike Dunk Genesis CryptoKicks」を発売、Roblox上で着用可能です。
同じくBurberryは、Mythical Gamesと提携、ゲーム「Blankos Block Party」内で限定のNFTコレクションを発売しています。
Louis Vuittionは「Louis: The Game」というオリジナルゲームを制作、ゲーム内でレアなポストカードを獲得するとNFTアート作品を獲得できるキャンペーンを展開しています。
DOLCE&GABBANAは、NFTコレクションのオークションを開催、総額5.6MUSD以上で落札され、落札者は現実でもオーダーメイドスーツを手に入れることができます。
デジタルファッションは、現実の世界と同様にたくさんの人々の中で認知されたい・目立ちたいという自己承認欲求を満たすアイテムとして、仮想空間の参加者が増えれば増えるほど普及していくと考えています。
この数年はバブル的に高騰した感もありますが、従来のゲームアイテムのように一つの空間に閉じず、二次流通のマーケットプレイスで転売できること、そして、DOLCE&GABBANAのように現実のアイテムと紐づくことで価値の安定化は進むと考えています。
このような流れから自社商品を簡単にデジタルファッションへと進化させるイネーブラーも続々と生まれています。
Bitskiは、ブランドやクリエイターがが NFT を発行〜販売するためのプラットフォームを提供、Adidasやe.l.f. CosmeticsのNFT発行をサポートしています。
RSTLSSは、さらにデジタルファッションに特化したプラットフォームとして、ブランドやクリエイターがメタバース内で着用するためのデジタルファッションの作成・販売・NFT化までを提供しています。
novelはECストア向けにNFT発行〜販売ツールを提供、Shopifyと連携して既存製品とNFTを紐づけて販売でき、NFT購入者に対しては特典オファーや専用メッセージを送信できる機能を提供しています。
デジタルファッションの浸透についても、前述のバーチャルストア同様にそのアイテムにより自己承認欲求を満たすことのできる参加者数と参加者同士のネットワークが大前提と考えています。ここで大きな可能性を秘めているのが、NFTメンバーシップの領域です。
NFTメンバーシップは、従来の会員プログラムやロイヤリティプログラムをNFTにより、置き換えるソリューションです。
ブランドの観点では、既に多くのロイヤリティの高い顧客が存在します。これらの顧客同士の間でNFT保有者は自己承認欲求を満たすことができ、購入する理由が生まれます。(前述したブランドもこの構造になっていると思います)
この仕組みを簡単に実装できるソリューションが、NFTメンバーシップだと考えています。主要機能は以下のように考えています。
NFT保有者はブランドが人気になればなるほどNFTの価値も向上するため、ブランドを応援、ブランドに対するロイヤリティが向上します。さらにロイヤリティの高い保有者はブランドのアンバサダーとしてクチコミを広げてくれることが期待されます。
また、プライバシーやセキュリティにおいてもブロックチェーンを利用することにより、個人が個人情報を管理し、分散型でセキュリティリスクの低い安心・安全な会員プログラム・CRMになる可能性を秘めています。
先日スターバックスがNFTプログラム「Starbacks Oddysey」を発表しましたが、まさにNFTメンバーシップのあり方を体現しているサービスだと感じています。
スターバックスはこれまでもモバイルオーダーアプリでの注文に応じてスターを集めると新商品の先行購入券やドリンクチケットを獲得できるリワードプログラムを行なっていましたが、Starbacks Oddyseyは既存アプリの追加機能として実装される見通しです。
プログラム内容は、アプリ上で「ジャーニー」と呼ばれるゲームやチャレンジを達成すると「ジャーニースタンプ」と呼ばれるNFTを獲得でき、限定イベントや旅行などの参加権を取得できます。「ジャーニースタンプ」を参加者同士で売買できるマーケットプレイスも存在しており、ユーザーに対して経済的なインセンティブが働きます。
さらに通常のNFT購入と異なり、暗号資産用のウォレットは不要でクレジットカードで購入でき、スターバックス側もNFTやブロックチェーンというワードは押し出さないと述べています。NFTに関心がない層も含め既に2500万人以上のアプリ会員を有するスターバックスの顧客を活用することで垂直的に立ち上がるのではないかと期待しています。
このような仕組みを事業者へ提供するスタートアップも生まれてきています。
Hangはブランド向けのNFTメンバーシッププログラムを提供しており、ブランドの購入に応じて特典が付与され、NFTの資産価値が向上、NFTは売却することができます。現在シリーズAでParadigm、Tiger Global、Warby Parker・Harry’s・Allbirdsの創設者によって設立されたGood Friends等から累計16MUSDを調達しています。
ProtoLはECストア向けのNFTメンバーシッププログラムを提供、Shopify・Booking.com等と連携して、NFT保有者はチェックアウトの際に割引等の特典を受けられる仕組みとなっています。こちらもメンバーシップは売却可能です。
今回はイマーシブコマース、デジタルファッション、NFTメンバーシップの3つの観点からコマース領域におけるメタバース・NFTの可能性を紹介しましたが、現実と仮想空間の融合は確実に来る未来だと思います。
どのような順番で何がきっかけで融合が加速するのか?まだ私たちの気づいていないコマース×メタバース、コマース×NFTの可能性に挑戦している起業家の方がいらっしゃれば是非お声がけください!