コマース・リテール領域のインダストリーベンチャーキャピタルNew Commerce Venturesは、2024年の78社に及ぶコマース・リテール領域の海外注目スタートアップをまとめた事例集「Commerce Startup Funding 2024」を公開しました。本事例集は海外のスタートアップの事例を通じて、コマース領域での起業を目指す起業準備層、コマース領域のスタートアップや事業会社の事業開発・事業成長の一助になることを目指しています。事例集は下記フォームよりダウンロード可能です。
■「Commerce Startup Funding 2024」ダウンロードURL:https://forms.gle/GAvCR9uHmw9Uny8B7
事例集のイメージは下記となります。
78社のスタートアップを下記8カテゴリで分類しています。
各カテゴリの中でサブカテゴリで分類・並び替えをしています。
各事例は下記のような形式でまとめております。
本記事では、「Commerce Startup Funding 2024」の事例をもとに2024年コマース領域におけるスタートアップ動向を振り返りたいと思います。
はじめに
コマース/リテールの世界は、オンラインとオフラインが一体化してきている結果、ToC、ToBともにあらゆる切り口でデジタル化・AI活用が進み、多様なスタートアップが次々に誕生しています。本記事では8つのトレンドに沿って各トレンドごとの概況をまとめます。なお、ここでは紹介しきれていない事例についてはレポートで御覧ください。
#toCプラットフォーム
#ソーシャルコマース/クリエイターコマース
#リテールテック/店舗DX
#B2B取引のDX
#サプライチェーンDX1(クリエイティブ、マーケティング、リテールメディア、プライシング)
#サプライチェーンDX2(フィンテック、ロジスティクス、製造、本物認証)
#サプライチェーンDX3(サービスEC、開発支援、業界バーティカル、ESG)
#サプライチェーンDX4(EC運営、EC経営、AIエージェント)
1つ目はtoCプラットフォームです。
消費者向けサービスでは、家賃をクレジットカードで支払ってポイントを得られる仕組みや、家周りの点検や修理を月額料金で定期的に行う提案など、日常の煩わしさを大きく解消するビジネスが目立ちます。たとえば家周りの家事代行サブスクを行うHoney Homesは、単発作業と異なる「定額+予防点検」の安心を提供していますし、Bilt Rewardsは家賃をクレジットカード決済するのに手数料がかからないうえポイントを貯められるという仕組みで多くの若年層を取り込みました。お小遣い稼ぎのスーパーアプリを目指すBenjaminは、ゲームやリサーチ協力、コンテンツ視聴など複数の方法で収益化し、それをSDKとして他サービスにも広げています。トラベル系ではDirecto TechがChrome拡張機能を通じてOTA手数料を節約できる方法を提示し、SNSで話題になりました。これらの事例はいずれも「実は不便だと思っていた」部分を巧みに解消し、大きな反響を得ている点が共通しています。
2つ目はソーシャルコマース/クリエイターエコノミーです。
SNSやコミュニティで情報が共有される流れが購買へと直接結びつく事例が増えています。大学の匿名SNSでC2C売買を可能にするFizzは、メールアドレスでの学内認証を利用して安全性を担保しつつ匿名化しており、学生間の自然な盛り上がりとEコマース事業を両立させています。StanlyはBTSやビヨンセなどのファンが集まるファンダム向けアプリで、グッズやチケット販売を含めたエンゲージメント向上を実現し、コミュニティ自体の熱量を売上につなげています。ShopMyがインフルエンサー向けにアフィリエイト商品のストアフロントを提供し、CommentSoldやbuywithは事業者のライブコマース浸透をライバー獲得、物流統合など、多面的に支援するサービスが普及しています。
3つ目はリテールテック/店舗DXです。
人手不足やオムニチャネル化の影響で、店舗スタッフのシフト管理からPOS連動、フランチャイズ投資まで、オフライン領域のDXが不可欠になっています。WorkJamはシフトやタスク、学習コンテンツを一体化して提供し、店長や従業員の手間を大幅に削減。Pear Commerceは店舗在庫とオンライン広告を連動させ、ユーザーが在庫ありの店舗だけを選択しやすくすることで離脱を防いでいます。フランチャイズ領域ではHarmonyzeが契約更新や保険確認などをAIエージェントで自動化し、Leasecakeがフランチャイジーのリース管理をSaaS化、FranSharesが小口投資プラットフォームを打ち出すなど、フランチャイズの資金面と運営面の両方を整備する流れも出てきました。また、DataplorがグローバルPOIデータを活用し出店計画を高度化したり、FeedbackNowが店舗内で顧客満足度を即座に把握したりと、リアルタイムなデータ収集も拡大中です。
4つ目はB2BDX、企業間取引の効率化です。
faxや人脈、展示会に頼っていたB2Bの世界がオンラインPFやAIで大きく変わろうとしています。AIエージェントの影響を最も大きく受けているテーマの一つかと思います。MaxRetailは過剰在庫を処分する代わりにオンラインで売るマッチングを実現し、4~8倍の高値で捌けることをアピール。Platoは卸売向けに解約リスクの検知やアップセル提案をAIに任せて売上15%増を実現。Catalogは受注処理や価格設定をワンストップ化し、ERP連携の手間を大幅に省きます。さらにKeychainがCPGと工場を結びつけて月500Mドル規模の取引をオンライン化し、Valderaは化学産業で40万サプライヤーのDBを活用して14%コスト削減を実現。AmebaやCavela、DideroがAIコパイロットとして仕入れ交渉や多言語コミュニケーションを効率化し、Pactumは条件交渉を自動化してWalmartなど大手が導入するなど、B2B領域のDXはAIにより加速していきそうです。
5つ目はサプライチェーンDXの1つ目(クリエイティブ、マーケティング、リテールメディア、プライシング)です。
ECのマーケティング関連の事業も引き続き多岐にわたります。商品画像や動画をAIで生成・最適化したり、リテールメディア構築やダイナミックプライシングを導入するケースなどです。Vizitは画像スコアリングでCVR向上に寄与し、HeatMap, Incはヒートマップと売上データをまとめて改善施策を提示。OXOLOが動画生成、Luma AIが3Dモデル化と、クリエイティブ周りの工数を下げる技術が増えました。マーケティング自動化ではWorkMagicやArcane Intelligence、Birdseye、Monocleなどが顧客分析や広告運用をAIコパイロットでサポート。Diddoが動画内の商品を検出してECリンクに誘導するAPIを提供し、TopsortがECサイトに広告枠を簡単に実装可能にし、Spressoがダイナミックプライシングの導入で平均18%の利益改善を実現するなど、業務改善にとどまらず新たな収益源の獲得、利益率の向上を推進する事業も増えています。
6つ目はサプライチェーンDXの2つ目(フィンテック、ロジスティクス、製造、本物認証)です。
決済関連やコールドチェーン、再生プラスチック調達など、サプライチェーンの各工程でDXが進行しています。AnsaがバーチャルウォレットをAPI提供して少額決済手数料を減らし、FlexFactorがEC決済エラーを独自審査で通し売上を5%増やす例が挙げられます。物流ではTwo Boxesが返品業務効率化、Gather AIがドローンと画像認識で棚卸しを短縮、PAXAFEがコールドチェーンの温度管理を可視化し、CargoSenseがサプライチェーンをデジタルツイン化して分析を高度化。Ennoventureがパッケージに不可視署名を埋め込むことで偽造品リスクを抑えるなど、生産から消費までの幅広いフェースでサービスが誕生しています。
7つ目はサプライチェーンDXの3つ目(サービスEC、開発支援、業界バーティカル、ESG)です。
組み込み保険や組立サービスといった形で新たな付加価値を生み出す動きが注目されています。Cover Geniusが保険APIを通じてECや旅行サイトに保険を簡単に追加し、Dealtが家具・家電の組立を小売店が自社ブランドで提供できるようにサポート。Vortex IQがEC開発をAIで効率化し、Centsがランドリー業界向けSaaSを展開するなど、今までDXが遅れていた領域を一気に進める可能性があります。ESGではCarbonfactがアパレルSKU単位のCO2排出量算定を行い、各社が経済合理性と環境配慮を両立するモデルを追求しているのも大きな特徴です。
8つ目はサプライチェーンDXの4つ目(EC運営、EC経営、AIエージェント)です。
こちらもB2BDX同様AIエージェントの影響を最も受けうるテーマでEC事業者向けのバックエンド管理や自動化が進んでいます。Moselleは在庫最適化AIを小規模EC向けに提供し、ShopifyやAmazonなど複数チャネルをリアルタイム可視化。SwapはDTCブランドの配送や返品、越境対応などをまとめて引き受け、海外展開に伴う煩雑さを解決します。ParkerはEC特化のダッシュボードとクレジットカードをセットにし、季節性や売上変動に柔軟に対応した与信枠を用意。Finaloopは複数チャネルの取引を自動で会計に取り込み、在庫やPL、BSといった指標を統合管理可能にしました。AIエージェントの領域ではConvergence Labsが汎用的な学習モデルを開発し、Agency AIがAutoGPTなど複数フレームワークのテストやモニタリングを一元管理するなど、EC運営の細かなタスクをAIが支援する仕組みも増えています。
以上8つの切り口で2024年の注目スタートアップ動向をまとめました。特に昨年のトレンドと比較すると、昨年はweb3やXR等が新トレンドとして多くありましたが、今年はやはりAI関連のトレンドを取り入れる企業の増加が目立ちました。このようにAIやデータ活用の急速な普及がありますが、それだけでなくB2Bの領域では「現場や利用者が求める具体的メリットをどれだけわかりやすく提示できるか」が重要であると再認識されます。単なる技術の新規性よりも、実際のROIやストレスフリーなUXがはっきり示されると利用が広がりやすく直近のAIはしっかり定量的な成果も見える形で普及しています。
本ブログでは各社の紹介も短く、また、すべての事例を紹介しきれていないため、詳細は「Commerce Startup Funding 2024」をダウンロードいただければと思います。2025年もコマース・リテール領域で積極的に出資してまいりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
■「Commerce Startup Funding 2024」ダウンロードURL:https://forms.gle/GAvCR9uHmw9Uny8B7