New Commerce Venturesは、コマース領域のスタートアップに対する投資、支援を行っている特化型VCファンドです。コマース領域では、コロナ禍の巣ごもり消費の影響を受け、eコマース(EC)が大きく成長しました。
ECの急成長に伴い、大きな成長を遂げている市場が、オンライン決済市場です。2020年のオンライン決済市場(決済代行事業者取扱高ベース)は、前年比118.6%の約19兆円、2023年の見通しは約28兆円と持続的な成長が予測されています。※1
昨年は、外出自粛が徐々に緩和される中で、急激に上昇したEC化率は低下しましたが、EC化率のボトムラインは従来よりも高水準を維持しており、EC市場・オンライン決済市場の成長は継続する見通しとなっています。
さらに決済市場では、決済手段の多様化が加速しています。PayPayや楽天ペイ、d払いをはじめとするコード決済では、PayPayの利用者数が5,500万人を突破、2021年度のコード決済市場規模(コード決済事業者取扱高ベース)は前年度比154.6%の9兆4,636億円と成長しています。※2
また、新たな決済方法として注目されたBNPL(後払い決済)も2021年度の後払い決済市場規模(後払い決済サービス事業者取扱高ベース)が前年度比123.8%で1兆円を越える見通しとなっています。※1他にもSNBL(積立払い)やクリプト決済など新たな決済手段やAmazonが提供する手のひら認証決済など新たな認証手段も生まれ、多様化が進んでいます。
今回の記事では、2022年の決済領域の資金調達動向を振り返りと決済サービスを提供するGMOイプシロン株式会社(GMO-EP)代表を務める田口一成氏へのインタビューを通じて、決済市場の最新トレンドと国内動向を紹介します。
※1 矢野経済研究所/国内EC決済サービス市場に関する調査(2022年4月)
※2 矢野経済研究所/国内コード決済市場に関する調査(2022年12月)
2022年の世界の決済領域の資金調達総額は208億USD、前年比51.3%と半減しています。これはベンチャー全体の資金調達総額が、ロシアのウクライナ侵攻や金融引き締め政策に伴う市場停滞の影響を受け、前年比65%に減少しており、決済領域もマーケットの影響を受けたことが要因となっています。
一方で、フィンテックの資金調達総額のうち決済領域が占める割合は34.6%と最も高く、依然成長市場として注目を浴びています。
2022年の決済領域の資金調達上位企業40社をみると、大きく以下3つのトレンドがあるようです。
資金調達上位40社のうち、小売事業者向けの決済支援ソリューションを提供している企業が11社と最も多くランクインしています。決済支援ソリューションは、従来の決済代行に加え、後払いや越境、デジコン特化、SaaS特化のように多様化が進んでいます。
次にローン関連のサービスも多くランクインしています。決済情報を基にした与信スコアリングをはじめ、新たな与信基準により中小企業向けにローンを提供している企業が成長している印象です。続いて、フィンテック企業向けのBaaSや金融機関向けの決済・台帳のような基幹システムをアップデートする企業もランクインしています。これらの企業は、従来の仕組みに比べ、リアルタイム性に優れている点が共通点として挙げられます。
この3つのトレンドに対して、決済のプロはどのように見ているのか?GMO-EPの田口一成氏に各トレンドの概要や国内動向をインタビューしてきました。
松山:決済代行サービスは、各地域毎に主要プレイヤーが大きく成長していますね。
田口:そうですね。資金調達上位にもあるCheckout.comは2010年にイギリスで創業したオンラインの決済代行事業者ですが、グローバルに展開しており、多言語・多通貨対応により、成長を続けています。
また、インドのRazorpayは累計8億USDを調達、インドでEC事業を行う際に利用する代表的な決済代行事業者となります。同様にFlutterwaveはアフリカ圏内の30ヵ国を跨ぐ通貨・決済手段に対応した決済ソリューションを提供しており、アフリカを代表する決済代行事業者となっています。
松山:日本におけるGMOペイメントゲートウェイ(GMO-PG)のように各地域で代表的なプレイヤーが成長する流れに加えて、直近ではゲームに特化してアイテムやコンテンツを購入する際の各国決済手段導入を支援するCoda PaymentsやSaaS企業向けに特化してサブスクリプションの支払管理や各国での税務処理等を支援するPaddleのようなサービスなど、特化型ソリューションが増え、多様化が進んでいるように感じます。
田口:BNPLもそうですが、決済方法や業種に特化したニッチな決済支援ソリューションは増えていますね。一方でStripeやPayPalも自社開発やM&Aにより特化型ソリューションを拡充しており、我々も網羅的にソリューションを提供していきたいと考えています。
松山:田口さんは、長く決済業界にいらっしゃると思いますが、決済代行ビジネスのKSFはどのような点なのでしょうか?
田口:決済代行ビジネスは、クレジットカードのみならず現地の主要な決済手段を取りそろえることが重要です。インドではUPI、中国ではWechatPayやAlipay、日本ではPayPay等、ローカルな決済手段でありながらも、数十%以上の利用率を持つ(場合によってはクレカを凌駕する)決済手段の導入は、裾野を広げたいEC事業者のニーズが潜在的に高いものです。
また、決済手段だけでなく、いかにシンプルかつ明確な設計思想のもとAPI等のシステムを提供するのかという点も重要です。特に近年はStripeのように、エレガントなシステムを提供する決済代行事業者がエンジニアの支持を集めております。決済システムのみならずECサイト、物流システム等とバーティカルに連携しやすいAPIを提供すること等も差別化ポイントと考えられます。
松山:たしかに「fincode byGMO」も決済手段の追加をしたり、ドキュメント系もエンジニアファーストな設計になっていたり、店子を管理できるプラットフォーム機能があったりと、次世代の決済代行サービスを創るぞという想いが伝わってきますね(笑)
田口:「fincode byGMO」は、スタートアップが真に必要な決済手段の実装やエンジニアの方がご利用しやすいドキュメント作成にも注力しており、ぜひ皆様に使っていただきたいです。
他にも、スプレッド収益を得るプラットフォーム事業等を始める場合はfincodeをOEM的に提供を受けることでシステム投資を押さえられるため、EC事業者からも多く引き合いをいただいております。
今後も新たな決済手段の追加をしたり、SDKを継続的にアップデートしたりとサービス品質を絶え間なく向上させていければと考えています。
松山:2つ目のトレンドとして新たな基準での与信とその与信に基づくローンを提供する企業の成長があるかと思います。この流れはSaaS企業に対してレベニュー・ベースド・ファイナンスを提供するPipeの出現によって加速してきましたが、直近ではこの領域も多様化が進んでいると感じます。
たとえば、Clearcoは、EC事業者向けにShopifyやStripe等の決済情報とGoogle AnalyticsやAdwords等のマーケティング情報を基に予測した売上に応じて即日ローンを提供するEC事業者向けレベニュー・ベースド・ファイナンス事業者です。
前述のPipeはSaaS企業向けにMRRやチャーンレートを基に将来収益を予測、即日ローンを提供してきましたが、ECの場合はサブスクリプションではないため、広告投下に対するCPAをベースに将来収益を予測しているようです。
田口:資金調達上位企業にあったSpotterは、Youtuber向けの融資プラットフォームとして、Youtubeの登録者数や視聴回数を基にローンを提供していて、新たな与信基準の作り方として面白い企業だと思いました。
松山:一時はソーシャルグラフを与信にしたり、Ant Financialのようにレンタル自転車の返却状況や喫煙の有無のような情報を与信にするみたいな話もありましたが、徐々に現実的に収益が予測しやすい基準・方法へ収斂され始めている気がしますね。
その中でも決済情報は与信において、非常に価値ある情報だと思います。GMO-PGは国内最大級の決済情報を保有していますが、この領域にも参入しているのでしょうか?
田口:我々の決済情報の活用としては、3つのソリューションをご用意しております。
これらは販売サイドのファイナンスという意味で似たサービスとなっていますが、加盟店様の売上金を根拠に、利用できる金額が①→②→③の順番で大きくなっている一方で、手数料率も同順番で高くなっております。加盟店様はこのバランスの中で柔軟にファイナンスを享受いただくことが可能です。
松山: 3種類も提供されているのですね。EC領域では広告費を後払いできるAD YELLや仕入の支払いを分割払いできるBiz Growth、Yoii FuelやFlex Capitalなど新しい資金繰りの仕組みが続々と生まれており、D2CやEC事業者が成長しやすい環境が整備されてきていると感じます。
田口:我々もこのような仕組みを整備していくことで、我々のソリューションをご利用いただいているお客様に貢献していきたいと考えています。
松山:最後のトレンドは「金融のリアルタイム化」と書きましたが、BaaSや金融機関向けの次世代基幹システムを提供する企業を見ると、リアルタイム性が共通点なのではないかと感じています。
たとえば、金融機関向けに決済システムを提供するForm3はリアルタイムに送金を実現するソリューションを提供、ClearBankは自社が銀行のライセンスを取得して、フィンテック企業向けのBaaSとしてリアルタイムに支払い可能なAPIを提供しています。同じく金融機関向けの機関システムを提供するThought Machineもリアルタイムの台帳機能を提供しています。
このようなリアルタイム・即時支払いを可能とするソリューションが成長している背景は何なのでしょうか?
田口:クレジットカード決済を代表として、基本的にオンラインでの決済はリアルタイムで行われており、即時にカードの利用枠を確認することが可能です。
しかし、従来の口座振替では決まったスケジュールで支払い依頼を行い、引き落としが行われるバッチタイプのもので、加盟店様にとっては引き落としができたのかできていないのかがわからず、サービス提供まで時間がかかるということが課題となっていました。同様に送金も依頼を行ってから1-3営業日程度の着金とラグが発生することが一般的でした。
そのため、リアルタイムに資金を移動することができるサービスは、B2C向けでは顧客への即時返金のニーズ等、B2B向けではサプライヤーへの支払い迅速化等のニーズを満たすことができます。
こうしたサービスは「リアルタイム口座振替」等と呼ばれています。リアルタイム口座振替は銀行ベースのサービスなので、カード決済よりも手数料を削減することが可能であり、コスト低減の観点からも加盟店様からのニーズが高いサービスです。例えば、国内のFX会社は資金入金の際にリアルタイム口座振替を利用しています。
松山:インターネットの普及でリアルタイムは当たり前のように感じてしまっていますが、金融機関のシステムは、社会に影響を与える重要なシステムである故に簡単には変更・改修できないシステムということなのですね。
リアルタイム決済に近いトレンドとして、給与支払いの前払い・リアルタイム払いのようなサービスも目にする機会が増えました。たとえば、DailyPayは労働後すぐに給与が反映され、引き出すことが可能になっています。GMO-PGでも「即給 byGMO」を展開していますが、このあたりの利用状況はいかがでしょうか?
田口:採用力向上を目的としてアルバイトやパートの方を多く抱える事業者様に多く引き合いをいただいております。この即給 byGMOでもリアルタイム送金の技術が利用されており、働いた分の金額をすぐに受け取ることができ、従業員の満足度を向上に寄与しております。ご利用いただいているお客様の中には、採用人数を10-15%増加できたという事例もございます。
松山:即払いによる効果も生まれてきているのですね。まだまだ聞きたいことがあったのですが、時間が来てしまいました。
このインタビューの深掘り的な位置付けで4月26日18時より田口さんを招いたイベント『New Commerce Day Vol.5 決済ソリューションの最新トレンドと活用方法』を開催予定です。本日の3つのトレンド以外にも続々と登場する決済手段の動向やGMO-PG・GMO-EPの戦略、多くのスタートアップを決済の観点で支援してきた成功事例も深掘っていきたいと思います。
田口:国内最大のPSP(決済代行事業者)として、これまでご案内してきた決済に関するトレンドをはじめ、GMO-EPは決済に関するあらゆるテーマをカバーしております。これまで決済を通じて、多くの企業と新たな事業やサービスも開発してきましたので、決済のトレンドやノウハウをイベントでお伝えできればと思っております。
また、スタートアップ向けの皆様には、fincode byGMOというエンジニアファーストな決済サービスを提供しております。これから決済システムをご検討の方や決済手数料率が気になる方は、ぜひイベントまでご参加ください。
松山:それでは、本日はありがとうございました。田口さん、イベント当日はどうぞ宜しくお願い致します。
田口:宜しくお願い致します。本日はありがとうございました。
4月26日18時より、本インタビューでは聞けなかった各社の詳細情報やその他最新の決済トレンドを語っていただくイベント『New Commerce Day Vol.5 決済ソリューションの最新トレンドと活用方法』を開催予定です。イベント終了後は交流会も開催しますので、コマース領域のスタートアップや起業検討中の方、新規事業を検討中の方は是非ご参加ください。
▼開催日時
4月26日(水)18時〜(17:30開場)
▼場所
株式会社いつも イベントスペース
東京都千代田区有楽町1丁目12-1新有楽町ビル7階
▼応募フォーム
https://ncd5.peatix.com/