今回は、2024年7月に施行されたEUの「ESPR(エコデザイン規則)」により導入が予定されるデジタルプロダクトパスポート(DPP)の概要とDPP管理システムをまとめました。
ESPRは、2030年までにEU域内で流通する製品を、自然環境や労働環境に配慮した持続可能な製品とすることを目標とした法案で2022年3月に欧州委員会で採択されました。その後、具体案の見直しが行われ、2024年7月18日に施行されました。
ESPRでは、売れ残った衣料品の廃棄禁止(2年後から適用開始され、中規模企業は6年間の免除、小規模企業は禁止対象から除外される予定)や製品に関する情報を記録〜閲覧できるDPPの導入等が規定されています。
DPPは、製品単位にデジタルIDを付与、持続可能性やトレーサビリティーに関する情報を記録、消費者や事業者が読み取れる仕組みを指し、具体的には素材や原産地、製造工場、耐久性、エネルギー効率性、リサイクル可能性、原材料におけるリサイクル原料の利⽤の有無、カーボンフットプリント等の情報をID毎に記録、QRコードやNFC等により読み取れることが求められます。
ESPRの規制は、EU域外の事業者がEU域内で販売する際にも適用されるため、規制に準拠した対応ができなければ、EU市場での販売が困難となります。また、オンラインマーケットプレイスのようなグローバルで展開する事業も対象となり、グローバルで仕様の見直しが進む見通しです。
現在のDPP対象製品は、以下7種目が予定されており、2026年から2030年の間に段階的に義務化される予定です。
<対象製品>
繊維製品(例:衣類、履物)
家具
化学薬品
バッテリー
家電
電子機器
建設製品
DPPに求められる情報は以下のように定められており、2025年中により具体的な内容が定められる予定です。
<求められる情報>
固有の製品識別ID
ISO/IEC 規格または準拠した規格
TARIC(統合関税率システム)コードおよびその他の関連商品コード
コンプライアンス文書(適合宣言、技術文書、適合証明書など)
懸念物質に関する情報
ユーザーマニュアル、手順、警告、安全情報
製造業者、運営者、輸入業者に関する詳細
施設固有の識別子
製品の長寿命を確保し、悪影響を最小限に抑えるための製品の設置、使用、保守、修理方法に関する消費者向け情報
使用済み製品を返却または廃棄する方法に関する情報
解体、リサイクル、廃棄に関する処理施設向け情報
世界のDPP市場は2024年に1億4440万USD、2034年には8億120万USDと市場規模は小さいながら高い成長率が予測されており、大手・スタートアップ双方がDPP管理システムも続々と参入しています。(Future Market Insights /2024年7月16日)
2016年にオランダで設立されたスタートアップです。既にDPPが導入されている自動車やEV用バッテリーをはじめ、建築・電子機器・原料など様々な領域に対してDPP管理システムを提供しています。
日本国内においてもアミタホールディングスや丸紅と共同で再生プラスチック製品のDPP実証実験に取り組んでいます。
2001年にノルウェーで設立された企業で、繊維、自動車、化粧品など様々な業界へサプライチェーン追跡〜管理ソフトウェアを提供しています。DPP管理システムに加え、リサイクルのための原料情報や修理履歴の記録プラットフォームなど幅広いソリューションを提供しています。
2001年にドイツで設立された企業で、製造業を中心に幅広い業種に対して、サプライチェーン追跡〜管理から製品コンプライアンスの管理までを行い、DPP管理システムも提供しています。トヨタやBMW、GE等のグローバル企業が導入しています。
2012年にフランスで設立されたスタートアップで、累計196.4MUSDを調達しています。様々な製品情報を統合、一元管理できるPIMソリューションを提供しており、DPP管理システムも提供しています。
2013年にスイスで設立されたスタートアップです。QRコードを用いて製品情報の閲覧ができるDPP管理システムや同じくQRko-dowo 活用した偽造防止ソリューション等を提供しています。
2016年にデンマークで設立されたスタートアップで、繊維や食品をはじめ様々な業界に対してサプライチェーン追跡〜管理ソフトウェアを提供しています。
2016年にスウェーデンで設立されたスタートアップ、累計31.6MUSDを調達しています。繊維産業に特化したトレーサビリティツールを提供しており、繊維の原産地から製造工場、出荷までの各工程の情報を記録、強制労働の有無の分析も支援しています。アディダス、アシックス等のグローバルブランドが導入しています。
2019年にスペインで設立されたスタートアップです。TRUSTRACEと同様に繊維産業に特化したサステナブルプラットフォームを提供しており、衣料品の製造から販売における各工程の記録と持続可能性に関するパフォーマンスの可視化を支援しています。
2018年にフランスで設立されたスタートアップで、32.6MUSDを調達しています。ブランド向けにNFTを活用したロイヤリティプログラムを提供していますが、この仕組みを活用してDPP管理ソリューションも提供しています。
高級腕時計のBreitlingではArianeeの仕組みを活用して、製品に関する情報を記録、消費者向けに保険加入や修理の追跡、保証期間の延長等を管理できるデジタル保証プログラムを提供しています。
2021年に米国で設立されたスタートアップです。Arianee同様にブランド向けにNFTウォレットや発行〜管理ソリューションを提供していますが、ブロックチェーン技術を活用し、DPP管理システムも提供しています。
2015年に英国で設立されたスタートアップで、22.7MUSDを調達しています。様々な用途のブロックチェーンインフラを提供していますが、その一つとしてDPP管理ソリューションを提供しています。
2017年に米国で設立されたスタートアップで、8.2MUSDを調達しています。アパレルブランドを対象として、原料から製造、販売までの製品情報に加え、販売後の再販、リサイクルまでの情報を記録するプラットフォームを提供しています。
ChloéはEONの仕組みを活用した消費者向けサービスを提供しており、消費者は購入アイテムのQRコードを読み込むと製品の様々なj情報を閲覧でき、さらに高級ブランドの中古売買マケプレへ再販することができます。
国内においても日本でも経産省が繊維産業小委員会で衣料品に含まれる素材やトレーサビリティ情報のデジタル化が議論されており、DPPの導入が進むと考えられます。
特にアパレル業界は、二次流通が活発なため、製造から一次流通までの情報に加え、二次流通での購買履歴やEONのような再販を促し、さらに再販による売上をブランドが得られる仕組みが生まれてくるのではと感じます。
EONは、自社サービスを「CRM for Products」と謳っていますが、製品情報と保有者情報を照合、蓄積することで、特定アイテムの保有者に対してブランドがマーケティングを行うことができ、同様にArianeeもブランドのロイヤリティプログラムと統合して、製品購入者に対してNFTによるインセンティブ提供や会員ステータスの管理等でロイヤリティを向上させる仕組みを提供しています。
DPP単体での市場規模はそこまで大きくはありませんが、このような製品情報に基づくマーケティングや再販等の仕組みを提供することにより、収益性の高いビジネスが生まれてくるかもしれません。
このようなデジタルプロダクトパスポートやサーキュラーエコノミー領域でのビジネスを検討している方がいらっしゃれば、ぜひお話しさせてください!以下Xへご連絡いただければと思います!
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